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函館地方裁判所 昭和47年(ワ)195号 判決 1973年8月06日

原告

山内コノヨ

右訴訟代理人

扇谷俊雄

被告

大正海上火災保険株式会社

右訴訟代理人

原田策司

相沢建志

主文

1  被告は原告に対し金二四六万〇、七八九円およびこれに対する昭和四七年七月二日から支払ずみまでに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告の各負担とする。

4  この判決の第一項は、仮りに執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告は、原告に対し金五〇〇万円およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決および第一項につき仮執行の宣言

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決

第二  請求原因

一  保険契約

訴外山内初雄は、昭和四五年五月二〇日被告らの間に、同訴外人が所有した自己のために運行の用に供する自家用普通乗用自動車(函五ま五二一五号)につき、保険期間を昭和四五年五月二〇日から昭和四七年五月二〇日までとする自動車損害賠償責任保険の契約を締結した。

二  事故の発生

1  日時 昭和四六年二月二四日午後八時三〇分ごろ

2  場所 亀田郡七飯町字峠下一六〇番道路上

3  加害車 普通乗用自動車(函ま五二一五号)

4  運転者 訴外宮川満

5  被害者 訴外亡山内藤義(加害車に同乗中)

6  態様 訴外宮川は、本件加害車を運転して大沼方向から函館方向に向けて進行中、センターラインを越えて対向車線内に進入したため、折柄進行して来た対向車に正面衝突した。

7  結果 右衝突により、当時本件加害車に同乗中の訴外亡山内藤義は、心臓ならびに左肺臓損傷の傷害を受け、即死した。

三  責任

訴外山内初雄は、本件加害自動車を所有するものであるから、本件加害自動車の保有者として後記損害を賠償すべき義務がある。

四  損害

(一)  逸失利益

金一、二一九万九、〇六八円

<内訳省略>

(二)  慰藉料 金一五〇万円

原告は、亡藤義の実母であるが、本件事故によつて息子である同人を失い、甚大な精神的苦痛を受けた。

したがつて、原告の慰藉料は金一五〇万円をもつて相当とする。

(三)  相続

亡藤義の相続人は原告と訴外山内初雄のみであるから、原告は、亡藤義の得べかりし利益の喪失による損害賠償請求権の二分の一にあたる金六〇九万九、五三四円を相続したものである。

五  結論

以上のとおり、訴外山内初雄は原告に対し本件事故に基づいて合計金七五九万九、五三四円の損害賠償の責任を負うに至つたので、原告は被告に対し自賠法第一六条第一項にもとづき保険金額の限度において金五〇〇万円および本件訴状送達の日の翌日から支払ずみに至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三  請求原因に対する答弁

一  第一項の事実は認める。

二  第二項のうち、原告主張の日時場所において、原告主張の加害車が対向車と衝突し、訴外藤義が死亡したことは認める。

三  第三項のうち、訴外山内初雄が本件加害車の保有者であることは認めるが、同人の賠償義務は争う。

四  第四項の事実は争う。

第四  抗弁

一  亡藤義は、本件加害車の運行供用者の立場にあつたものである。

(一)  亡藤義は、訴外山内初雄の二男で本件事故当時は、父初雄のもとで働いていたもので、将来右訴外人の事業の後継者の一人と目されていたものである。

そして、本件自動車は、業務用としてよりむしろ亡藤義が自己の専用車として私用の目的に使用されていたものであつて、亡藤義は、本件事故以前から自己の責任において管理使用していたものである。

(二)  また、亡藤義は、本件事故当時訴外宮川満、同岩井光男とともに本件自動車に乗車していたものであるが、同人は、三人の中では中心的な存在であつて、その前日運転免許証の交付を受けたばかりの訴外宮川に指示して運転させたもので、同人らは共同して本件自動車を使用していたものであるから、本件事故当時共同運行供用者の地位にあつたものである。

二  仮りに、亡藤義が本件自動車の運行供用者でないとしても、本件事故は、訴外藤義が専ら遊びのために本件自動車を持ち出し、しかも、訴外初雄がこれを知れば当然その使用を禁止したと思われるような方法で使用中に発生した事故であり、訴外初雄の本件自動車についての運行支配、運行利益は完全に失なわれていたものである。

従つて、このような事故の結果発生した亡藤義の被害について、訴外初雄に損害賠償義務はないものである。

三  仮りに、以上の主張が全て認められないとしても、亡藤義は、自ら初心者である訴外宮川に対し極めて危険な運転を命じたうえ、格別の注意を与えず、却つて、運転をかわつてほしいという訴外宮川の申出を考慮せず、先行するバスを追いこさせるなどしていたのであるから、本件事故発生につき亡藤義に過失があることは明らかであり、かつ極めて悪質な無償同乗者であるので、この点は、損害算定にあたつて考慮すべきである。

第五  抗弁に対する答弁

一  第一項(一)のうち、亡藤義が本件自動車を自己の専用車として私用の目的に使用していたこと、亡藤義が自己の責任において管理使用していたとの点は否認、その余の事実はいずれも認める。

同(二)のうち、亡藤義が宮川、岩井の間では、中心的存在であつて、宮川に指示をして運転て運転させたとの点は否認、その余の事実は不知。

二  第二・三項は争う。

第六  証拠<省略>

理由

一争いない事実

請求原因第一項の事実および原告主張の日時場所において、原告主張の加害車が対向車と衝突し、訴外藤義が死亡したこと、ならびに訴外山初雄が本件加害車の保有者であることは、当時者間に争いがない。

二亡藤義の運行供用者性

1  亡藤義が本件加害車を自己の専用車として私用の目的で使用していたもので、自己の責任においてこれを管理使用していたものであるとの被告の主張は、全証拠によるもこれを認めることができない。

2  <証拠>によると、本件加害車は、亡藤義の父初雄の経営する造船、製材業の事業用に使用されていたもので、主として亡藤義が運転していたこと、亡藤義は、終業後や休日にドライブなどのためこれを運転していたこと、亡藤義は、本件事故当日原告に命ぜられて顧客を本件加害者で送ることになり、その際、原告に対し用件が済んだあと友人のところへ寄る旨断つて出発したものであること、亡藤義は、本件事故当時本件加害車の運転をその前日免許証の交付を受けたばかりの訴外宮川満に委ね、自らは助手席に同乗していたものであることなどが認められる。

右事実を総合すると、亡藤義は、訴外山内初雄とともに本件加害車の運行供用者性を分有しているものというべきであつて、その比率は三〇対七〇とみるのが相当である。

なお、乙第一号証の四および証人宮川満の証言によると、亡藤義は、宮川に対し免許証をなくして今持つていないから運転するようにと申し向け、また、宮川は、途中で亡藤義に運転を交代してくれるように言つたが聞いてくれなかつたとのことであるが、全証拠によるも、同人が捜査段階においてその旨供述していたものとは認められず、その他弁論の全趣旨に照らし右証拠は採用できないし、他に右事実を認めるに足る証拠はない。

また。全証拠によるも、訴外山内初雄が本件事故当時、本件加害者の運行支配を完全に失つていたものとは到底認めることができない。

三損害

(一)  逸失利益

1  証人山内初雄および原告本人の各尋問の結果によると、亡藤義は一八才一〇ケ月で死亡したものであるが、本件事故当時父のもとで造船工見習として稼働していたもので一ケ月金三万円の収入があつたこと、二一才以後は、造船工として少くとも一ケ月金九万円の収入をあげ得たこと、および六二才に達するまで就労が可能であつたことが認められる。

2  生活費は五〇パーセントと見るのが相当であるから、亡藤義の右純収益を死亡時において一時に請求するものとし、複式ホフマン計算法により現価を計算すると次のとおりである。

イ 一九才より二一才に達するまで二年間

180,000円×1.8614=335,052円

ロ 二一才より六二才に達するまで四一年間

540,000円×20.7491=11,204,514円

計金一、一五三万九、五六六円

3  前記運行供用者性の割合および前記認定の事実によつて認められる過失割合(五〇対五〇と認められる)によつて計算すると次のとおりである。

11,204,514円×0.7×0.5=3,921,579円

(二)  慰藉料

子を失つた母親の精神的苦痛は真に耐え難いものであるから、たとえ加害車の運行供用者がなお円満な婚姻生活を営んでいる夫である場合であつても、これを全面的に宥恕すべきであるとするのは妥当でなく、本件の諸般の事情を考慮すると、原告の慰藉料としては金五〇万円が相当である。

(三)  相続

亡藤義の相続人は原告と訴外山内初雄のみであるから、原告は、亡藤義の得べかりし利益の喪失による損害賠償請求権の二分の一にあたる金一九六万〇、七八九円を相続したものである。

四結論

以上のとおりであるから、原告の被告に対する本訴請求は、合計金二四六万〇、七八九円およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和四七年七月二日から支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による金員の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。 (吉本俊雄)

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